2016年12月

冷蔵庫からビールを出すと
居間に座ってテレビを見始めた

年取ったな、そう思いながら
胃に優しい豆腐のつまみを
さっと作った

金色に近い茶色の髪は
汚らしくの伸びている
それでも髪を切らないのがこの人だ
同じ年齢の女の人よりも
老けて見える肌の荒れ方と皺のせいだ
男からどう見えるかが一番大事な
この人はいつだって痩せ気味で
細身のパンツにちょっと、スポーツ系
をうまく取り入れたファッションをしている

今もそんな様子で
ミキが出したつまみを嬉しそうに
食べている

お金が無くなったのか
どうせ男に全部搾り取られた
挙句、帰って来たのだろう
女友達のできるタイプではない

「引っ越したんだね~
隣のせいさんに聞いてびっくりしたよ
康太はどこ行ったの?
立派な大学に入ったそうじゃない
会って見たいわ~」

早速そんな事を言う

「康ちゃん、私にも何にも言わずに
出て行っちゃったから知らない」

「ふ~ん、そう。
冷たい子だね、親子じゃ無いか
あんたは姉さんだし」

産むだけ産んで放って置いた自分は
冷たく無いのか?
少しイライラしたが
昔からこんな人だったと諦めた

「夕ご飯、何がいい?」

ミキが聞くと

「ちょっと、胃の具合が悪くて
ビールだけでいいよ」

康太は母親を許そうとする
ミキすら嫌いになりそうになって
そこを離れた

ミキは沢村が会いたがっていると言う話に
心を占められていた
それだけで、十分だと思う
沢村はあの頃はいかにも大学教授のような
文学者だったが
小説が売れてからはメディアも注目して
雑誌なんかで見かけることもある

本当に、自分の人生とは全く交差しない
全くかけ離れた人だと
そんな思いでいっぱいになる
この頃のミキには何より嬉しい言葉だった

母親がそばにいることは
みぃの事を考えると願っても無い事だ
みぃは怪しい世界にいるとはいえ
しっかり信頼できる人間に守られている
そのみぃの人生を狂わせるようなことは
絶対にさせられない

ミキは少し笑いながら

「さぁ、好きに生きて楽しいんだから
いいじゃない
とにかく、あなたは
知らないふりしてればいいし
ここにはもう、来ないで
私もあなたのことは教えないから」

康太は自分が卑怯者のような気がして
胸が苦しくなる
小学生の頃、頑張って
今の環境から抜け出せば
屈託のない人生が待っている
そう思っていたが
何も変わらない
新しい人間関係が始まれば
もっと、苦しくなる
ただ、それだけのことだ

「でも.....」

康太の気持ちはわかりすぎるほどわかっている
ミキは康太が自分と同じところにいるのは
わかっていた

ミキも沢村と会う前なら
そう考えたかもしれない
でも、自分があの母の子供に生まれた以上
何も変わらないし
沢村と一緒になることはおろか
横に並んで座ることすら
自分の気持ちが平らなまま会えはしないのだ

そして、沢村と会えないのならば
自分はどんな生き方をしようが
どうでもいいのだ
全てを受け入れるしか自分が生きる道はない

「いいのよ
別に困ったりしないし
借金に追われているわけじゃなさそうだし」

康太は呆れながらも

「どうせ、男に振られて
次の男がいないだけなんだろ
男さえできれば、
また出て行くかもしれないけれど
あいつ、幾つになったんだろう?」

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