2017年07月

長い夢から覚めたような気がした
それでも、自分の環境にあらがって今の仕事について
良かったと思い、ミキに感謝し
離婚してからはミキがたまに家にやって来て
昔ながらのミキと康太のカレーを作ったりしてくれた

そんなときに受けた仕事がちょうど離婚調停だった

佐竹夫婦がもめていたのは
子供の親権についてで、中学生の優未という女の子がいた
優未は父親についていくと言う
しかし、父親は現在無職で借金もあると言う
女好きで、浮気も何回もして
妻が別れたがるのも納得の話だ
そして、妻は資産家の娘で優未をこれから育てるのに
何の不都合もない
父親は優未をこれから育てる自信はないと言っている

しかし、康太は優未が父を好きであると言うのは何となくわかった

「いや、攻めているんじゃないんだ
妻に見せたら、結婚には絶対反対だったろうけれど
私は幸せに裕福に育った妻
そして、彼女にたっぷりと頭の悪い愛情を注ぎこまれた娘
そんな人間よりも、よっぽどいいと思うよ
それが言いたかったんだ
うちは、あの二人でまた、楽しく暮らし始めるだろうが
君が今度のことで余計な悩みを抱えないようにね
それに、お姉さんにも言っといて
幸せそうに見える普通の家庭なんてまったく
つまらないものさってね
まぁ、沢村教授もすばらしい人だから
余計なお世話だろうけどね」

そう言うと、鍵を置いて去っていきました

そうだ、あまりに常識や固定観念に縛られすぎて
自分を追い込んでしまう今までの生活
時間のロスでしかない
自分のやりたいことをのびのびとやって行こう

「あ、でも、僕はそんな妻が理想だと
結婚前までそう思っていました
母が全く反対の人だったんで」

父親は少し困ったように

「知ってるよ
私は君の経歴があまりに立派なんで
悪いけれど調べさせたんだ
育った町、あの辺りは貧困層の多いところで
ヤンキーみたいな若い人も多い
東京都内では一番、出来の悪い子供が集まってる
そう言われている町で、父親は事故で無くなり
母と妹は失踪中
その中で難関私立中学に合格し、東大から弁護士
あまりにもできすぎだよ
可愛がりたい存在ではないが
やはり娘だからね
心配で探偵を雇ったんだ

男好きの母親、妹のみぃさんの今、
そして、ミキさんの元の職業」

康太は驚きで口がきけない
すべてわかったうえでミツホとの結婚を許してくれたのか

「僕はね、長い間、妻が嫌いだった
いや、今もだ
そして、妻の作品のようなミツホを
可哀そうに思っていたんだ
もっと、早くに離婚してミツホは僕が育てればよかったと
そう、思っていたんだ」

「え?」

「でもね、それなりの会社に勤めていて
上司の親族関係で妻をもらったし
なにしろ、妻は真面目でね
愛だの恋だのではなくて
女は年頃になれば結婚するもの
一度結婚すれば、どんな夫でもその関係は全うするもの
そして、私を愛してはいないのに
愛す努力をして、そして母親として
全力で子育てをする
僕が離婚の原因にしたい事情なんて一つもないんだ」

康太は不思議な気持ちでその話を聞いた
まるで、自分の母とは別の生き物だ

父親は鍵を返しに来たと言いながら
上等なウィスキーも手にしていた

「ミツホのことは妻以外の人間と
一度ゆっくり喋りたいと思っていたんだ」

康太は正直、迷惑だと思った
しかし、自分が悪いのだから
さっさと軽いお酒のつまみを作った

「やぁ、すごいな
うちではこんな気の利いたものが出たことがないよ」

「いいえ、うちは姉さんがうるさかったから
手を抜かないように、気を付けてるんです」

「いや、ミツホがこの間から、家にいるだろう
なかなか、料理が上達していて驚いたよ
うちの妻は、君が相当な特訓を暴力でやらせてるって
怒っていたよ」

「あ、まぁ、そういうことです」

「いやいや、僕はね君の勇気に感心してるんだ」

「え?」


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