2018年02月

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「私ね、お姉ちゃんにずっと言えないことがあったの」

ミキは驚いたようみぃを見た
みぃは少し言いにくそうに

「お姉ちゃんはずっと、お母さんを憎んでいたでしょう?」

ミキは考える間もなく頷いた
今もそうかもしれない
あの母親を思い出すのも嫌だった

「私は大好きだったの
小学校で勉強なんか大嫌いだったし
お母さんといれば、毎日が楽しかった
お姉ちゃんや世間は私がお母さんに強いられて
体を売ってたって思ったかもしれないけれど
小さいころから、そんなの嫌じゃなかった
叔父さんによっては優しかったし
たくさんお金をくれるし
お母さんは私には自分が納得した人を回していたのよ」

ミキはその話を驚かなかった
中学を出たばかりのミキを風俗で働かせていた母だったが
ミキ自身もそう、嫌じゃなかった
それを認めるのは死ぬほど嫌だったのだが・・・・

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みぃとは深い話をしたことは一度もなかった
ミキは康太に勉強をさせ
一生懸命になっていた時
最初はみぃだって、まともに育てなきゃ
そう心に誓っていたのだ
しかし、母が連れ去ってしまった
速水が高校を中退して、速水を預けるまで
みぃのことは母に一番似ていると決めつけて
心の奥底ではちょっと、嫌な思いを抱いていたのだ
みぃにしてもあの境遇で初めて愛した正二が
死ぬまでミキを愛していたことを知っていたから
口に出さないまでも
お互い複雑な胸の内の姉妹でもあったのだ

しかし、ここに来て初めて
みぃは思っていたことを口に出した

「あの時ね、正二さんと一緒になりたかったの
そして、お父さんとお母さんのように
貧乏な長屋で二人で暮らして
ごく普通の暮らしがしたい人だと思ったの
でも、正二さんは殺される前日までお姉ちゃんのことを思い
お姉ちゃんのために私にすべての財産や
会社をやっていく能力を詰め込んでくれていたのよ

わたしだって、普通に結婚して普通の子供を持ちたいと
ずっと、思っていたの
まぁ、この仕事だし、あきらめてはいたんだけどね
速水がここに入って来た時に
この子も私と同じ道を歩くしかないのかと
悲しい思いをしたのよ」

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速水の結婚式をすべて仕切って
イタリアでド派手に開いてくれたのは
みぃだった
みぃもこれからの速水のことは心配していたのだ
そして、自分の財産の半分は速水のおかげで作られたものだ

どれだけ喜んでも喜び足りない感じだった
タケオのことはもちろん知っている
ミキの横に立って、美しい花嫁衣裳の速水と
タケオの白いタキシード姿を見ながら

「お姉さん、よかったね~
私も安心した~」

ミキはみぃのその言葉がものすごく意外だった
みぃの人生はミキよりも母に左右され
小中の義務教育なんかまったく行ってはいない
母に連れていかれた時から
ほとんど風俗の世界の価値観で育っている
まともな常識なんかまったく心の中にないと思っていた
速水を16で預けた時から、そこは覚悟していたのだ

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ミキは幸せだった
康太が中学に合格したとき
自分が沢村と一緒になったとき
そして、速水が生まれた時

もちろん、どれも嬉しかった
でも、今が一番うれしい

いや、一番喜んでいるのは
タケオの両親かもしれない
高校受験に失敗して、そのまま繁華街に消えてしまった次男
心配したが
久しぶりに表れた次男は一流大学に合格して
そして東大教授の娘を嫁にすると言う

速水の学歴には少し不思議な顔をしたが
立派な大学教授の娘だし
今は家事手伝いというお嬢様の生活をしていて
その透明感と大人し気な雰囲気にすっかり満足していた

今はその速水を自分の息子が出来ちゃった結婚で
一緒になろうとしていることに恐縮していた

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「いったい、僕を誰だと思ってるの?
この世界ではベテランで人気のある木佐さんが
警戒する男だよ
腕は確かだし、うっかり妊娠なんかさせるはずないよ
ハーミー自身は気が付いていないかもしれないけれど
ハーミーの絶大な人気は、普通の女の子のような透明感と
清楚で知的な雰囲気、それをぶっ壊すエロチシズム
そして、僕はその清楚で知的なところにやられているんだ
この間、初めて知ったけど
お父さんは東大の教授なんだろう
なんて理想的なんだって感心したよ
だから、どうしても大学に入ってバカじゃないって見せたかったんだ

お金は将来嫁になるんだから
貸し借りなんかちっちゃいことは言わないよね」

速水はただただ、自分の間抜けさに嬉しくて、驚いた
確かに一人っ子に生まれて
自由に育てられた
苦労しているわけじゃない
風俗の世界に入ってはいたが
それはみぃが全面的に守ってくれる世界だった
速水には人を見る目なんかまったくなかったのかもしれない


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