2020年08月

「どうして、充くんと結婚したの?」

ブラックコーヒーを飲んでいる私を
不思議そうに見ながら

「おばさんって甘い紅茶が
好きなんじゃ無いの?
え?なんだっけ?
充さんと結婚したのは何故って?
あ、充くんって呼ぶんだ
いつからのお友達?同級生?」

話をはぐらかすつもりではなく
自分が気になったことを喋りたいようだ

「小学校の頃からよ
そうね、充くんだなんておかしいかもね
でも、昔からそう呼んでたからね
他には呼べないのよ」

「そうなんだ
もしかして初恋同士とか?」

ああ、そうかもしれない
そんなことを思いながら
もう一度

「充くんとどうして結婚したの?」

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行成は17から女に寄生する生活をはじめ
澄江の母親に子供が生まれるまで
実家には帰らなかった
いや、それからも帰ることはなく
ミキや康太は祖父の実家が
医者の家と聞いた時には
ものすごく驚いた物だ
しかし、行成自身は
澄江の子供3人が、どの子も頭が良くて
康太が東大に合格した時には
やはり自分の血だと確信していた

澄江の母親は新宿は歌舞伎町では
ボスみたいな女で
もともと、行成は若いキナのヒモだった
それは何人目かも忘れる同棲していた女で
彼女は風俗で行成のために
体で稼いでいた
その風俗店のオーナー兼店長が美佐江で
キナが風邪で仕事を休んでいる時に
部屋を訪ねてきて行成にあうと
もう、なりふり構わずに
行成を自分のものにした

私は苦笑しながら

「良かったら、ちょっと、
お話しない?」

名刺ひとつと私の話
すぐに信じて

「私も喉乾いちゃって
誰かとお茶したかった〜
結婚したらお友達誰もいなくなっちゃった
充さんは仕事、忙しいし」

そう言ってついてきた
すぐ横にちょうど、スタバがあった
甘ったるそうな苺の飲み物を
嬉しそうに頼んできた

「実家には?
高校生のあゆちゃんに会ったわよ
お姉ちゃんみたいになりたいって言ってた
一緒にお茶してあげると喜ぶわよ」

冴子さんの顔はパッと輝いた

「え?あゆに会ったの?
嬉しい、私みたいになりたいって?
可愛い子でしょう?」

私がなぜ、あゆにあったかなんて
考えもつかないようだった

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将来なんか考えられない
だいたい、行成が育った時代は
戦争が終わったばかり
さて、これから頑張ろうという
人間だけじゃ無い
病院の再建に走り回っている父は
その能力を発揮して楽しそうだし
兄も戦後の日本の国民の健康を
本気で憂えているような真っ直ぐな人間だ

でも行成は、ただ、楽しく
生きていければよかった
それに、お金持ちのおぼっちゃまらしく
生活に対する不安など何もなかった
サラリーマンになるなんて
考えられない

そして家に帰らなくなった
帰らなくても、女のところへ行けば
誰か彼か世話をしてくれる
お金なんか持ってなくたって
お金は出したあげるから
ずっと、うちにいてという
もう、笑いは止まらない

母親がどんなに嘆こうが知ったこっちゃ無い

私は料理教室から出てきた冴子に
近づいた
今日はまっすぐ帰るようだ

駅で降りて高級スーパーに寄って
出てきたところを

「ごめんなさい
冴子さんでしょう?
私、あなたのご主人の友人なんだけど」

そう言ってできたばかりの名刺
私立探偵事務所の所長のやつを渡した

「充さんの友達?
私立探偵?」

冴子さんは少し頭が悪い
その名刺が意味することは
私が冴子さんの
不倫の証拠を調べているんじゃないか
ぐらいは考えてもいいのに
素直に

「あら、すごい!
充さんのお友達の探偵さん!
それも女探偵?
かっこいい!」

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