2021年01月

「そっと、そのマンションに行ってみると
管理人がでてきて
あの堀山さん、鍵を私に預けて
出て行ったんですよ
坊ちゃんが来たら渡してくれって

この管理人は父親の息のかかった人間で
子供の頃から知っている
母にお金を持ってきたり
本妻がやってくる前に
わからないように手配したり
もうすぐ75くらいになるはずだ
絶対的に信用できる
このマンションに愛人を取っ替え引っ替え
住まわせていることは
百も承知なのだ

彼女自身が鍵を返したのかと聞くと
それは、感じの悪い男で
彼女に頼まれたって言っていた
新しい男ができたんじゃないかと
管理人は気の毒そうにする
今度の彼女は気に入っていて
もう、二年くらいなるからだ

それで、奴は父親が手を回して
全て犯罪にならないようにしてくれたんだ
と、ホッとした
父親にはそんな仕事をしてくれる
ヤクザの知り合いももちろんいる」

トミーがまた、唸りそうになるのを宥める


武士の様子が結婚してすぐから
ずいぶん病んでいる様子で
私はすごく気になった
特に眠れなさそうで
私が夜中に目覚めると
必ず台所でお酒を飲んでいた

「何か困っていることがあったら
遠慮なく話して
私にできるかどうかわからないけれど
力になれることなら協力するし
ダメでも、話すことで
楽になるかもしれないでしょう」

しばらくすると

「実は、会社がどうにもならなくなっている」

なんだ、そんなことかと私はホッとした
会社が倒産しそうならば倒産すればいい
私にとってはなんでもないことだった

「なんとかなる方法はないの?」

「ある!」

あるのならば、余計問題ないではないか

二人ともトミーは無視した

「そこで彼が考えついたのが
『オヤジ!』国会議員である父親
絶対になんとかしてくれる
そう思って電話をする
すぐ、出て話も聞いてくれた
犯人になってくれる男を
そこに差し向けるから
マンションを出るようにと指示された
ほっとした彼は自分の家に帰って
奥さんの隣でぐっすり寝たそうなんだ」

トミーは驚いて

「政治家ってそんなことができるの?
なんて汚い世界だ」

そう言った
教えたいことはたくさんあるが
今はその続きだ
今のところ、死体は消えていない

「何日かしてニュースにもなっていない
だいたい、あのマンションは自分名義だ
警察が自分のところに来るはずだ
そう思って知らぬ存ぜぬで通すつもりで
待っていたけれど
誰も来ない」

私たちは新しいマンションを買った
私からしたら武士が今、住んでいるところで十分なのだが
母親がやってきて
結婚のお祝いにマンションを
買ってくれるという
この義母は確かに能天気なのだが
悪い人ではなさそうで
私と一緒に住みたかったが
まだ、私たちは若いから
80くらいになったら、一緒に住んでね
そのための保険にマンションを
買ってくれたつもりのようだった

武士は母は好きにさせておけば
機嫌がいいから気にしないでと言われ
お金があるってことは楽しいし
問題が起こらないということだと知った

しばらくはこの電気コタツも
カップヌードルもゴロゴロできる
万年床もない生活を楽しんだ
欲しいと思うものを妥協しないですぐに買う
なんと素晴らしいことかと思ったが
すぐに飽きた

「妻も子供もいるが
愛人も作っては別れるを繰り返しているんだ
今の愛人もそろそろ
飽きてきたらしく
昨日の夜、別れを切り出そうと
マンションに行ったんだ
まぁ、隠し子とはいえ
政治家の子供だ
金銭的にはなんの問題もなくて
そのマンションも彼の名義
行ってみたら、台所で倒れている
病気かと思って呼びかけてみるが
返事はない!
呼んでも全く起きない
よく見ると背中にナイフが刺さっている
動かすと血が床に流れた
すぐに警察!そう思ったが
この女が愛人であることを思う
もう、死んでいる
とにかく落ち着いて!
このことは妻や子供には隠したい
さて、しかしどうしたものか」

「最低すぎるよ!
すぐに警察を呼ばなきゃダメでしょう」

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